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監督の眼というレンズ

インタヴュー:ディーター・ヘッキング(VfLヴォルフスブルク監督) 

24. August 2015

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Q:ヘッキング監督、年間最優秀監督の選出された後、コーチングスタッフとの食事を公言していましたが、それはもう済みましたか?

 

A:私たちはヴェルプケ(注:ヴォルフスブルク郊外にある地区)にあるイタリアンに行ったよ。そこで、今のコーチングスタッフに全幅の信頼を寄せていることを伝えたんだ。もし、スタッフ陣に何かしら支障があるようなら、多くの部分で修正しなければならなかっただろう。前に、半分冗談で、もし私たちが不調に陥ってしまったらどうなるか、ドキドキしてしまう、なんて言っていたけれど、そんな時期がやって来てほしくはないね(笑)。それはともかく、それだけ、コーチングスタッフ陣が安定して仕事をしていることは見せられていると思う。

 

Q:監督たちやジャーナリストたちの間には、ある意味、緊張感のようなものがありますが、その点でも、この受賞はもっと大きな価値があると見てもいいのでしょうか?

 

A:ドイツのジャーナリストたちが、この最優秀監督の表彰に票を投じるということは、それに見合っただけの価値があることだと思うよ。この投票がとても僅差だったのは、皆が見たはずだ。マルクス・ヴァインツィールやルシアン・ファブレも昨シーズンは素晴らしい働きを見せていた。ただ、最終的には、やはり私たちがタイトルを獲得していたのがものを言ったのかな、という気がするね。

 

Q:ヴォルフスブルクにかぎらず、これまでのあなたの継続的な働きが、過小評価され続けてきたことに対する罪滅ぼしのようなものは感じますか?

 

A:罪滅ぼしだなんて思わないよ。公の意見が操作されるなんてあってはならないからね - それがどんなものであってもね。重要なのは、自分自身、そして自分の仕事に納得できている、ということなんだ。

 

Q:あなたはキャリアを通じて、レギオナルリーガ(現4部リーグ)からチャンピオンズリーグに出場するチームまで率いてきました。どのレベルで仕事をしている監督であれ、しっかりと評価されなければならないと思いますか?

 

A:リスペクトしなければいけないのは明らかだよ。他の人々へ、そして自分の仕事に対するリスペクトだ。選手たちに対するリスペクト、コーチングスタッフ、クラブ、そして対戦相手への。あまり高飛車になることなく、常に謙虚でいること - それは私がいつも気をつけてきたことなんだ。

 

Q:指導者としての見方をすることなく、単純にファンとしてサッカーを観ることは、まだできますか?

 

A:できるけれど、すぐにテレビを消してしまうね。仕事で自分たちの試合のために四六時中サッカーに関わっているから、少ない自由時間は家族のために使いたいんだ。もし、一人で家にいて、たまたま試合が流れているようだったら、そのままにしておくかもしれないけれど。でも、何かしらの理由がないとね。

 

Q:監督という”眼鏡”を通して観る、というのはどういうものですか?

 

A: それは、たぶん、テレビの前で一般の人々が、一対一やエモーショナルなものを求めて、その雰囲気の中で興奮しながら見ているものとは、全く違うと思う。監督の目線では、システムや選手間の距離、プレッシングを仕掛けるのか、引いて守ってくるのか、といったテクニカルなところを観るんだ。試合の映像が眼に入ると、監督として映像を認知してしまうクセはすぐにスイッチが入ってしまうんだ。

 

Q:監督というものは妥協することも必要なのでしょうか?

 

A:それは必要だと思うよ。というのも、人間、いつも自分の意見ばかりが正しいと思うこともできないからね。とはいえ、妥協ばかりしていてもしょうがない。そんなことをしたら、チームを率いるのに必要なだけの威厳も失ってしまう。選手たちに「この監督は自分のやることが分かっていて、きっちり線引きができる」ということを見えるようにしなければならないんだ。その一方で、選手たちの方から、理性的な意見が出るようなら、それに耳を傾けて受け入れる準備があることも分かるようにしないといけない。

 

Q:あなたは、この2年半の間、4-2-3-1というシステムを好んで使ってきました。それから察するに、この布陣は好みの戦術だということもできますか?

 

A:この並びは、うちのチームの顔ぶれを見ると、理想的だと思うよ。マックス・クルーゼというこれまでとは違ったタイプの選手が来たことで、2トップという選択肢も出てきたがね。そうして、また何か新しいことを学ぼうとするモチベーションができるのは良いことだよ。とはいえ、4-2-3-1が最も向いているシステムであることには変わりはない。

 

Q:なぜですか?

 

A:ひとつには、グラウンドのゾーンを分割する際に、このシステムは多くのヴァリエーションを用意してくれることが挙げられる。うまくハマれば、ボールに向かって積極的にプレッシャーを掛けに行くことが出来る。そして、ボールを囲むように、前方にも多くの選手をうまく配置できる。特に昨シーズンはそのやり方が上手く機能したね。

 

Q:チームを形作る、現代サッカーのがっちりとしたコルセットのようなフォーメーションは、あなたの眼から見て、自分の戦術と何かしら関係するようにも見えますか?

 

A:それをあまりに固定しすぎてしまうのは、あまり好きではないんだ。私たちにはワントップに適した選手だけではなく、ペルシッチやシュールレ、カリギュリ、そしてデ・ブルイネといった、前線に2トップの一角としてプレーできるアタッカーが揃っているんだからね。ワントップということに限定して話をするだけでも、想像力が必要になる。今でも、試合の流れの中では、システムは流動的に変化しているしね。ときには3バックや5バックにもなるし、2トップのときもあれば、3トップ、ときには4-2-4なんてときもあるしね。現代サッカーでは、ピッチ上で、その状況に合わせて、素早く対応することが求められているんだ。

 

Q:監督という職業のお手本はいますか?

 

A.そういう意味でのお手本はいない。それは、その人のスタイルを真似ることと同じだからね。でも、オリジナルは、常にコピーよりも優れているものだ。海外のサッカーを人はよりしっかりと観るものだが、つい最近ではスペイン代表やFCバルセロナなんかはいい例だ。でも、私がなにかアドバイスできるとすれば、自分の道を進んで、自分で経験を積んでいった方が良い、ということだね。

 

Q:あなたは、下部リーグの方もご覧なっていることはよく知られていますね ー もちろん、息子さんがプレーしているからかもしれませんが。

 

A:もちろん。もし、私がその場に行くのなら、自分の息子の姿を観に行くためだよ。クライスクラッセ(9部)のチームを見に行くことは、私にとってはリラックスをしにいくようなものだからね。ピッチ脇に立っている人たちのことは良く知っている。私自身も、そのような成人チームでプレーしていたからね。ブラートヴルスト(焼きウインナーソーセージ)にかぶりつきながら息子がプレーする様子を見るのは、とても楽しいよ。

 

Q: あなたはスポーツ好きでもよく知られていますが、他の競技の指導者などからも影響は受けたりしますか?

 

A:まあ、自覚的にそうすることはないかな。すでに亡くなってしまったけれど、フリッツ・スドゥネクとボクシングやボクシングの試合のための準備について話し合うのはとても楽しかった。あとはクリストファー・ノールトマイヤー(編集部注:ハンドボール・ブンデスリーガのハノーファー・ブルクドルフの元監督)と意見交換することもあった。あらゆる監督は、自分の選手たちのために正しいトレーニングを選ばなければならない。ただ、ひとつだけ、全ての監督にとって共通して重要なことがある:それは、もっとも重要なのは直接話し合うということなんだ。ただ、今の通信技術があまりに発達してしまった世界では、そういったことができる機会があっても、時間が足りなくなることが頻繁に起きるようになってしまったがね。

 

Q:あなたの仕事にとって、あなたの人生経験はどのような役割を果たしていますか?

 

A:私の家族には13歳から29歳までの子どもたちがいて、見ていると、彼らにとって何がモチベーションになるのかが目に入ってくる。私自身が選手だった経験も含めて、18歳の若い選手がベンチにも入れなかったり、レギュラーになれなかったりすることの意味も十分理解している。こういった経験は、自分が監督として選手にとっては嬉しくないことを伝えるときに、役に立つんだ。

 

Q:あとどのぐらい、この職業を続けるつもりですか?

 

A:今の時点では、そんなことはあんまり考えたことがないな。その時が来たら、気づくんじゃないかな。これからやってくる若い選手の世代が、今までのようなやり方ではうまくいかないようになってくるリスクは常にあるしね。それは私の父親を見ているから、分かっているよ。彼はコンピューターが仕事場に導入されたとき、「もしあなたがこのPCを使って働けないのなら、誰か若い男の子をあなたの目の前に座らせますよ」と言われてね。その1年半後に、彼は仕事を辞めたんだ。こういうのが、辞める時期が来たな、と感じる状況なんじゃないかな。でも、私はまだまだ長い時間、サッカーの世界に残れると思っているよ。少なくとも、今はVfLヴォルフスブルクの監督として、とても快適に仕事をできているからね。

 

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(提供:VfLヴォルフスブルク Special Thanks to: VfL Wolfsburg)

- スタジアムパンフレット”ウンター・ヴェルフェン”:ヴォルフスブルク対フランクフルト戦(8月16日)より許可を取って掲載